年に一度の嘘をついても良い日だが
今日ばかりは嘘ではない。
ついに、コトリ木のレコーディングは
大詰めを迎え、緊張とともに
和爾駅に降り立った。
前方を確認すると、井波陽子嬢に出会った。
恐らく同じ電車であることを
うすうす二人とも感じていたのだが
長年仕事を共にする熟年漫才コンビのように、
同じ電車であっても違う車両に乗っていたのだ。
陽子嬢は、私を見るなり爆笑した。
(この語り口調は、「メロスは激怒した」風に)
一瞬、自分の顔に何かついているのではと疑ったが
そうではないようだ。
米米クラブの浪漫飛行を聴きながら、
携帯のいらない写真を整理していたら
私がうつっていたので、それを見ていたら
本人に出会った、というような理由だったか
(うろ覚え)
とにかく、爆笑とともに我々は駅を後にした。
新進気鋭のエンジニアでもあり、ドラマーでもある森さんの
カッコいい車に運ばれて我々は、ボスコ・スタジオに向かった。
何度訪れても、このスタジオの雰囲気には
癒されてしまう。
スタジオへの扉が開いて、
「さぁ、いよいよだぜ。」
と武者震いしながら、私はつぶやいた。
(続く)